そうはいっても、わたしの自由に世界は回らないので、グレーのフィルターのかかった朝は来てしまう。ぐずぐずと準備をして玄関のドアをあける頃には、くだらないことがくだらなすぎて腹が立ちそうになっている。でも、ここで腹を立てても本当に仕方がないことだし意味もないので、イヤホンを耳に突っ込んで音楽を聴く。短い通勤時間だけど、ちょっと音楽を聴く。そして、くだらないこと以外のことにちょっと気を取られて、電車に乗って前に進む。そんな風にでないと1日が始まらなかった時期がある。
そのくだらないことは、心のどこかを、ばっちり損なってしまったし(村上春樹風にいえば、ね。)、それは永遠に元には戻らないと思う。でも、そのときに聴いていた音楽が、その損なわれた部分を別のもので埋めて、平気にしてくれた気がしたのだ。そしてふたたび、風景は総天然色に戻った。いまだかつてそんな経験をしたことがなかったので、わたしはその時にようやく音楽のある一面を理解することとなったのだと思った。